日時:2026年2月22日(日)
場所:国立オリンピック記念青少年総合センター センター棟503(Zoom 併用)
<大会ZOOM meetingURL>
https://us06web.zoom.us/j/84957524484
ミーティング ID: 849 5752 4484
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入場:参加費:正会員無料、一般2,000 円
参加方法:1.2026 年2 月20 日(金)までに 下記のQR コードまたはURL から、申し込みフォームに アクセスしてお申し込みください。
コードリンク
https://forms.gle/irkpDMAFSu9Ggz677
2.オンラインで申し込んだ会員の方には開催当日に、Zoom参加のためのURL をメールでお知らせします。
3.総会欠席の方はこのフォームで委任状も提出できます。
4.出席の方は、時間になりましたらZoomにお入りください。時間内は出入り自由です。
受付 13:00-13:20
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1.【研究発表】13:20-13:40
楽曲の「多様性における統一」をどう分析するか
——18世紀器楽ジャンルを横断する統一的な分析的枠組みの検討——
佐竹 那月
2.【研究発表】13:40-14:00
ニコライ・カプースチン Suite in the Old Style Op.28(1977)分析の試み
石野 香奈子
14:00-14:15 質疑応答
14:15-14:30 休憩
3.【研究発表】14:30-14:50
O.メシアンのM.T.L.同定方法の再検討
植村 遼平
4.【研究発表】14:50-15:10
T. Rex「20th Century Boy」における楽曲構造とシンクロ権による資産価値の相関分析
山路 敦司
15:10-15:40 ラウンドテーブル
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問い合わせ: JIR事務局 office_jir08@yahoo.co.jp
研究発表要旨集 (順不同)
楽曲の「多様性における統一」をどう分析するか
——18世紀器楽ジャンルを横断する統一的な分析的枠組みの検討——
佐竹 那月
【発表要旨】
本発表の目的は、18世紀のファンタジア、ソナタ、ロンド等の器楽作品における「多様性における統一」が楽曲分析によっていかに捉えられ得るか、方法論的に検討することにある。
発表者は博士論文において、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(1714–1788、以下C. P. E. バッハ)に代表される「自由ファンタジー」を対象に、楽曲分析と音楽美学の両側面からその音楽史的位置づけを検討している。「自由ファンタジー」とは、鍵盤楽器による即興演奏のことである。この種のファンタジーは、遠隔調への自由な転調や、多様な音楽的パラメータの変化を特徴としているがゆえに、ジャンルとしてだけではなく技法としても、ソナタやロンドといった他ジャンルに浸透する性格をもつ。「自由ファンタジー」と他ジャンルの密接な関連性についてはこれまでも分析的に研究され(Schulenberg 1984; Head 1995 他)、他方、「自由ファンタジー」の思想的背景と見なされている「多様性における統一」やイリュージョニズム等を、C. P. E. バッハのファンタジア、ロンド、ソナタの分析に接続する試みも多少は為されてきた(Tishkoff 1983; Grimm 1999; Fick 2023 他)。しかし、それらの分析は、楽曲に表れている「多様性における統一」原理の概略的・表面的な特徴しか言い表しておらず、思想的背景と楽曲分析との有機的接続という点では未だ不十分な点が多い。
本発表では、そのための足掛かりとして、Mandelbaum(2008)のロンド分析の手法を主に参照しながら、複数の主題的素材が交錯するC. P. E. バッハの《自由ファンタジー 嬰ヘ短調》H. 300, Wq. 67(1787)の分析を試みる。Mandelbaum(2008)の分析手法は、外的形式と内的形式(Rothstein 1989)、つまりフレーズの構造から楽曲形式構造を見出す分析と、シェンカー風分析によって楽曲全体の調構造を見渡す分析をそれぞれ行ったのち、それらの結果を統合的に扱うものである。本発表を通して、18世紀器楽作品における「多様性における統一」を分析的に把握するための方法論的可能性とその限界を明らかにする。
ニコライ・カプースチン Suite in the Old Style Op.28(1977)分析の試み
石野 香奈子
【発表要旨】
ニコライ・カプースチン(1937-2020)はモスクワ音楽院ピアノ科で研鑽を積んだロシアの作曲家・ピアニストである。その作風はジャズとクラシックが融合したスタイルで知られている。とはいえ彼の作品は即興的要素を含まない、クラシカルで精緻な書法で知られる。Suite in the Old Style(古い形式の組曲)はキャリアの再出発に際し書かれた初のピアノソロ作品である。
本論は、この作品において、古典的な形式に即興的要素のないジャズを融合させることの意図についての考察である。
まず作品を概観すると、その形式はJ.S.バッハの《フランス組曲》を範としたように思われ、実際その構成はよく似ている。5つの舞曲はAA(半終止)-BB(完全終止)の形式に則り、約束事(同一の調性、拍子、テンポ、曲順)もおおむね踏襲されている。細部では速い曲の対位法的な展開や旋律処理にはバッハの多声書法、緩やかなサラバンドではショパンのようなピアニスティックなエクリチュールも認められる。
大きな特徴は、ジャズの音楽言語を駆使した調性音楽という点にもある。リズム面ではバックビートとシンコペーションの多用、ハーモニー面ではブルーススケール、テンションコード、無調的な技法も用いられている。また様々な楽器のフレージングやクリシェを思わせるパッセージも散見される。
組曲は、西洋音楽の歴史の中で整えられた様式美の結晶ともいえる。一方でアフリカにルーツを持つアメリカのジャズの歴史はそれより新しく、自由な即興性を重視する。人は音楽を聴くのであって形式を聴くのではないが、組曲形式を時間の流れを整理した「まとまり」と考えるなら、「繰り返し」が情報を整理し、記憶を定着させることが「聴きやすさ」と関連すると推測される。組曲形式とジャズの音楽言語の融合による「聴きやすいジャズ」という新たなコンセプトが提示されていると考えられる。
O.メシアンのM.T.L.同定方法の再検討
植村遼平
【発表要旨】
本発表は、オリヴィエ・メシアン(Olivier Messiaen, 1908-1992) が楽曲中に使用した、全7種類の「移高の限られた旋法」(以下M.T.L.)の判別基準および分析手法について検討するものである。M.T.L.の構成音は、特定の音の追加や省略を考えることで、別のM.T.L.の構成音と一致しうるため、楽曲分析上、どの旋法が適用されているのかを厳密に判別することは必ずしも容易ではない。加えて、メシアン自身は旋法外音の使用を認めるなど、実際にはM.T.L.を極めて自由に運用しており、全ての構成音が完全な形で提示される事例はむしろ少数である。一方、メシアンはしばしば、特定の音型やリズムパターンにM.T.L.を当てはめて作曲しており、そうした場合は構成音が不足していても、文脈からM.T.L.を同定できる可能性が高まる。しかし、ピッチクラス・セット理論(以下PCS理論)を用いた先行研究(Bernard 1986; Forte 2007 他)を含め、音楽的文脈を考慮しつつ、時に複合的に使用されるM.T.L.をいかに峻別して分析するかという客観的な基準の構築には至っていない。また、ある箇所が特定のM.T.L.として同定可能な場合でも、それが他のM.T.L.の可能性を内包している点については十分に検証されてこなかった。
本発表ではメシアンの1930年代の作品、とりわけメシアンのM.T.L.の構想が具体化される一つの転機と考えらえる《主の降誕》(1935)を対象に、M.T.L.のスーパーセットおよびサブセットの関係も念頭に置いたPCS理論による分析など、複数の手法による分析結果を提示・比較することで、M.T.L.分析における方法論的可能性について再検討したい。
T. Rex「20th Century Boy」における楽曲構造とシンクロ権による資産価値の相関分析
山路 敦司
英国グラムロックバンド、T. Rexの「20th Century Boy」(1973)は、映像利用を許諾するシンクロ権ビジネスにおいて、日本の広告市場で長期にわたり特異な権益を生み出し続けている。本発表は同曲の特性が生み出す資産価値との相関を分析するものであり、15秒のTVCM演出の制約下で、楽曲構造や音響的質感が、いかに高い訴求力を発揮しているかに注目した。その上で、これら要素が複合的に作用し、高い資産価値を維持する要因を考察した。
ノンモン1秒を除いた14秒における同曲の演出は、“3秒ルールの壁”を突破する構造を持つ。冒頭0-3秒でギターによるコード・ストロークが即座に鳴り響く音響的フックとして機能し、直後に意図的な音圧減衰(無音)を配置することで視聴者の予測を裏切り、注意を最大化させ、サリエンス(顕現性)効果を獲得させる。3-10秒ではボーカルのシャウト導入により集中度を高め、聴取者の情動を強く喚起するリフにより記憶に定着させる。10-14秒で展開しながらも短三度音程によるリフのイヤーワーム効果により一貫した音響特性が維持される。この三段階構造が、14秒間の完全なアテンションエコノミー最適化を実現している。
また、オリジナル曲とカバー曲について音響分析を行なった。カバー曲と比較してオリジナル曲はスペクトラム・フラットネスが低く、アナログレコーディングの特性であり人間の聴覚が最も敏感な500-2000Hz帯域に音響エネルギーが高度に集中している。これによりテレビ等の小型スピーカーでの再生適合性が高く、最小の音圧で最大の注意喚起を実現する。さらに適度なダイナミックレンジにより過度なラウドネスを回避し聴取疲労が少なく、結果的に中域集中、周波数明瞭性、アナログ自然性という音響特性によっても、アテンションエコノミー最適化が実現されていることが実証された。
<発表者プロフィール>
石野 香奈子
2025年3月に博士論文「クロード・ドビュッシー《12のエチュード》(1915)に見られるフランス鍵盤音楽の伝統と革新」を提出、明治学院大学大学院博士後期課程を修了。2026年4月より同大学文学部芸術学科非常勤講師として勤務予定。本職はメディアや映像を中心としたフランス語通訳・翻訳・通訳案内士。
植村遼平
慶應義塾大学文学部美学美術史学専攻卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修了。現在、同大学院後期博士課程在籍。日本音楽学会東日本支部正会員。2023年より、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)次世代研究者挑戦的研究プログラム採択中。
佐竹 那月
慶應義塾大学文学部卒業、東京藝術大学大学院音楽研究科音楽文化学専攻(音楽学研究分野)修了、修士論文が優秀論文に選出される。現在、同大学院博士後期課程に在籍中。2023・2024年度日本学術振興会特別研究員(DC2)。2023~2025年、ハンブルク大学に留学。
山路 敦司
作曲家。東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了。京都市立芸術大学大学院博士(後期)課程修了。スタンフォード大学客員研究員、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー修了を経て、現在、大阪電気通信大学総合情報学部教授。コンピュータ音楽やノイズ、映像音楽やゲーム音楽等を中心に領域横断する制作と研究活動を行う。