日本リズム学会

Japan Institute of Rhythm

日本リズム学会 第41回大会


日時:2025年2月16日(日)11:30〜総会 13:00〜16:30頃(未定)発表他
場所:場所:国立オリンピック記念青少年総合センター センター棟503(Zoom 併用)

 
入場:参加費:正会員1,000 円(学生会員500円)、一般2,000 円(学生1,000 円)

参加方法:1.2025 年2 月10 日(月)までに 下記のQR コードまたはURL から、申し込みフォームに アクセスしてお申し込みください。 
QRコードリンク 

https://forms.gle/irkpDMAFSu9Ggz677

2.オンラインで申し込んだ会員の方には開催当日に、Zoom参加のためのURL をメールでお知らせします。

3.総会欠席の方はこのフォームで委任状も提出できます。

4.出席の方は、時間になりましたらZoomにお入りください。時間内は出入り自由です。

 

下記スケジュールは参考/変更予定スケジュールです(随時更新いたします)。

オンライン入場 12:50(予定)

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1.【研究発表】13:00-13:20

旋法とは何か? (第17回) 「短神秘和音」の生産性に関する考察 
――スクリャービン《ピアノソナタ第7番》の分析――」

見上 

   

2.【研究発表】13:20-13:40  

「ドビュッシー作品におけるラグタイムの影響」

石野 香奈子 

     

13:40-13:50  質疑応答 
13:50-14:00  小休憩 

     

3.【研究発表】14:00-14:20

「O.メシアン《主の降誕》におけるM.T.L.の使用」

植村 遼平

   

4.【研究発表】14:20-14:40  

「イルカ・リズム」~イルカのスウィングとジャンプ、
呼吸には音楽のリズムに通じるものがある~

吉澤 頼子

      

14:40-14:50  小休憩 

               

5.【研究発表】14:50-15:10 

C. P. E. バッハのロンド形式と「自由ファンタジー」

佐竹 那月

    

6.【研究発表】15:10-15:30

ヒットソングにおける同音連打リズム動機の顕著化とその普遍性

山路 敦司

 

15:30-15:40  質疑応答       

 
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問い合わせ: JIR事務局 office_jir08@yahoo.co.jp


 

研究発表要旨集                                                                                                                  

旋法とは何か? (第17回) 「短神秘和音」の生産性に関する考察 
――スクリャービン《ピアノソナタ第7番》の分析――

見上 潤

【発表要旨】

本発表は、スクリャービン《ピアノソナタ第7番 作品64『白ミサ』》(1911-12年)の分析を通じて、「短神秘和音」の生産性に関して考察する。この作品では、倍音列1,3,7,9,↑11,13の6音から構成される神秘和音の第9音を下方変位させた音素材が支配的である。この音素材を「短神秘和音」と呼び、各種の調的な音素材(長3和音、短3和音、短7和音、属7和音)、諸クリスタル和音(κ和音およびλ和音とその混合和音)、移調の限られた旋法第2番などと関連しあいながら、この作品の複調的・複素材的多層構造を構成していることを、第1主題提示部(1-28小節)の分析過程をなぞりながら明らかにする。
第1主題提示部第1部分の主要旋律部分は、d moll→e moll→fis mollのドミナント進行の連続による古典的な反復進行(D2°上型)が抽出可能であるが、他方、短神秘和音による反復進行の「うわずみ」としてそれらの調性は登場している。第2部分は、クリスタル和音(λ和音)による並行和音が、第3部分は、λ和音が分散和音になって登場する。翻って、λ和音は短神秘和音に含まれる音素材であり、λ和音から元の短神秘和音の根音も類推可能である。この根音によって還元譜作成も可能となり、低音構成も明らかになる。さらには、移調の限られた旋法第2番との関連も浮上する。
神秘和音は、島岡譲『総合和声』原理篇第3章 構成音のゆれ「変位が含まれる高次和音形体」によって理論的根拠が与えられている。長短の神秘和音は1個の音が半音だけ異なるにもかかわらず、生産性という点でも全く異なった様相を呈している。
短神秘和音は、《ピアノソナタ第6番 作品62》にも登場していたが、第7番の分析でその重要性がクローズアップされた。第7番全曲の分析、および第6番との比較検討はあらためて別の機会に行う。

 

 

 

「イルカ・リズム」~イルカのスウィングとジャンプ、
呼吸には音楽のリズムに通じるものがある~

吉澤 頼子

【発表要旨】

1.リズムの循環・・水中でのスウィングと空中での呼吸(ジャンプ)する様を一つの丸い円にしてみると、アップダウンを繰り返すリズムの形が出来る。
2. 拍とスウィング・・イルカのテールキックが拍を表し、短い拍は軽やかに、長い拍はたっぷりと大きく音符の長さに見合ったエネルギーと漕ぎ方でキックをしてスウィングする。他の魚との比較(尾ひれの動かし方)。
3. 小節・・イルカが1小節1スウィングで小節線を越える時、いつも小節線の上には空白・空間があり、イルカは呼吸をする。
4. フレーズ・・フレーズとフレーズの間は大きな空間があり、イルカは大きなジャンプをし、大きな呼吸をする。その空間には次のフレーズへの準備、創造、感情、予動、リズムのあそび、ゆるみなどが含まれる。
5. リズムの形・・リズムの形には2拍子、3拍子、4拍子、6拍子、の形がある。拍子の他に民族舞踊のリズムの形や、いろいろな形がある。リズムの伸縮も形にして描き出し目で見ることが出来る。
6.リズムは多重構造・・人は演奏するとき、リズムを多重構造でとらえている。
7.リズムのノリ・・良いノリは空白の部分で作られる。
8.ピアノ指導に取り入れる・・拍、スウィング線、拍子マーク、ジャンプの線、リズムの形。付点は音符の赤ちゃん。タイとスラーの線。弱起の曲。シンコペーション。
9.イルカは踊る・・リズムとは運動している動きであり、踊りである。
 

 

O.メシアン《主の降誕》におけるM.T.L.の使用

植村 遼平

【発表要旨】

本発表は、オリヴィエ・メシアン(Olivier Messiaen, 1908-1992)の「移高の限られた旋法 modes à transpositions limitées」(以下M.T.L.)について、1930年代の作品における用法とその変遷を示すとともに、その中に《主の降誕》(1935)がいかに位置付けられるのかを検討するものである。
メシアンはM.T.L.を、創作最初期の《前奏曲集》(1928-29)で既に使用し、最終的に『音楽言語の技法Technique de mon langage musical』(1944)にて全7種類の旋法として体系化した。この『音楽言語の技法』執筆以前の1930年代に、メシアンはM.T.L.の技法の構想を固めていったと考えられる。発表者は、1930年代の出版作品を対象に楽曲中のM.T.L.の使用箇所を特定し、楽曲全体でのM.T.L.の使用割合を算出した結果、同年代でM.T.L.の使用割合が増加傾向にあり、使用されるM.T.L.の種類にも偏りがあることを明らかにした。
そして、本発表で特に着目するのが全9曲からなるオルガン曲《主の降誕》である。この作品の楽譜の序文(1936年出版)で、メシアンは第1~4旋法の4つについて、その理論的なアイデアと、9曲のいずれの作品中に使用したのかをそれぞれ解説しており、メシアンがM.T.L.の構想を深めていった流れを理解する上で重要な作品だと考えられる。本発表では、《主の降誕》全曲におけるM.T.L.の使用を分析した結果を示し、第6曲<天使たち>や第9曲<私たちのいるところの神>などで、他の作品で使用例が少ない第4旋法が使用されていること、およびその用法の特徴について明らかにする。さらに、序文におけるメシアンの記述と分析の結果との比較も行い、1930年代の作品全体における《主の降誕》の位置づけについて考察する。 

 

 

C. P. E. バッハのロンド形式と「自由ファンタジー」

佐竹 那月

【発表要旨】

本発表の目的は、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(以下C. P. E. バッハ、1714〜1788)のロンドと「自由ファンタジー」との関連性を、形式の観点から解明することである。
 Kollmann (1799) は、ロンド主題がつねに主調で提示されるフランス風の「適切な」ロンドと、ロンド主題が様々な調で繰り返される「不適切な」ロンドとを区別した。Kollmannのこの分類に従えば、C. P. E. バッハの《識者と愛好家のためのクラヴィーア曲集》(以下、《識者と愛好家》)第2〜6集 Wq. 56-59, 61(1780〜1787年出版)に収められたロンドや、《ヴァイオリン、チェロ伴奏付きクラヴィーア・ソナタ ト長調》Wq. 90/2, H. 523(1775)終楽章等のロンドは、「不適切な」ロンドに該当する。「不適切な」ロンドに関する先行研究では、Kollmannの主張を踏襲するものが多い一方で、Mandelbaum(2008)は、主調以外の調で提示されるロンド主題をエピソードと見なしている。また、Head (1995) らはC. P. E. バッハのロンドと「自由ファンタジー」との関連に着目しているものの、突飛な転調、突然の気分の変化といった、楽曲中の局所的な特徴に言及するのみで、楽曲全体の形式の比較は未だ十分に行われているとは言えない。
 本発表の楽曲分析では、《識者と愛好家》より「不適切な」ロンド1曲、ファンタジア1曲を取り上げ、両楽曲の形式を比較する。《識者と愛好家》第4~6集は、クラヴィーア・ソナタ、ロンド、ファンタジアから構成されている点で珍しい曲集であると同時に、それらのジャンルの形式・書法に複雑な相互関係がみられる点で注目に値する。本発表で、主に「自由ファンタジー」との関連からC. P. E. バッハのロンド形式の特異性について再考することを通して、「自由ファンタジー」の形式が、18世紀後半にドイツやイギリスで作曲された「不適切な」ロンド形式の形成にどのように関わっているのか、分析的に明らかにしようと試みる。

 

 

 

ドビュッシー作品におけるラグタイムの影響

石野 香奈子

【発表要旨】

19世紀末のフランスではミュージック・ホール、サーカスなど大衆的な場所で、外来の音楽やダンスが楽しめる流行が起こっていた。1900年のパリ万博でのジョン=フィリップ・スーザによる吹奏楽団の演奏や、ケークウオークというダンスもアメリカ由来の大衆文化として根付き始める。
1862年生まれのクロード・ドビュッシー(1862-1918)はそのような時代の中で自らの音楽を育んだひとりである。ピアノ作品〈ゴリグォーグのケークウオーク〉(1908)がその風潮を反映し、後の〈パックの踊り〉、〈ミンストレル〉、〈変わり者の「ラヴィーヌ将軍」〉などにも同様の傾向が認められる。彼が1915年に作曲した《12のエチュード》には、こうした一連の軽音楽の断片が用いられているばかりか、全般的に裏拍アクセントや小節を結ぶシンコペーションなどラグタイムのリズム的特徴が散見される。
筆者が着目するのは、1900年代の諸作品ではタイトルや音楽標語に「ケークウオーク」が用いられているのに対し、《12のエチュード》にはそうした手がかりが消え、代わりにスコット・ジョプリンの《メープルリーフ・ラグ》(1899)に代表される「ラグタイム」のリズム的特徴が認められる、という矛盾である。一方、同時代のエリック・サティ、イゴール・ストラヴィンスキーは「ラグタイム」を用いている。
音楽史家のジョン・スウェッドは1875年から1915年を「プリ・ジャズ」とし、ラグタイムやヴォードヴィル音楽をここに含める(Szwed 2000 :79-80)。ダヴィディニア・キャリーは、「アメリカのポピュラーソングは『ラグタイム』と呼ばれていたが、大西洋を越えフランスに来るとダンスと結びつき総じて『ケークウオーク』と呼ばれるようになった」と説明する(Caddy 2007 :292)。
 「ケークウオーク」か「ラグタイム」か、用語とリズムの再定義を試み、外来文化の受容を考えてみたい。
 

 

 

ヒットソングにおける同音連打リズム動機の顕著化とその普遍性

山路 敦司

【発表要旨】

近年のヒットソングにおいて、サビ部分を中心に同音連打を伴うリズム動機が頻繁に用いられる傾向が顕著であることに着目し、その要因と音楽的機能を分析する。この現象は、従来のメロディアスな音高遷移に基づく歌唱的要素に比べ、単純なリズム反復がもたらす身体性に基づく誘発的要素が、ヒットソング制作において重要視されるようになったことを示唆している。特に、TikTokをはじめとするSNSの普及により、短時間でキャッチーなフレーズが求められる現代の音楽消費環境が、この傾向をさらに加速させていると考えられる。

 同音連打の使用は、ポピュラー音楽にとどまらず、広範な音楽的背景に根ざしている。例えば、アフリカ系アメリカ人のワークソングに見られるコール・アンド・レスポンス、日本の三三七拍子など、単純なリズムの反復が集団の意識を統一し、身体的な一体感を生み出す機能を果たしてきた。また、欧米のポピュラー音楽市場においても、過去の楽曲と比較して近年の楽曲ではリズム的なフックを重視したサビが目立つようになっている。特に、シンプルなリズムパターンがダンスを誘発し、リスナーが容易に共有しやすい構造になっている点が指摘できる。例えば、最近のK-POPにおけるサビ部分の連打音の使用の顕著化は、文化コンテンツ輸出によるグローバル展開の戦略の一環として国際市場でのヒットに寄与していると考えられる。

 本発表では、具体的な楽曲例を用いながら、同音連打のリズム動機がヒットソングにおいてどのように機能し、どのようにリスナーの記憶性や共感性を高めるのかを考察する。また、民族音楽や伝統的なリズムの分析を通じて、この現象が単なる一過性のトレンドではなく、音楽におけるリズムの根源的な役割に基づく普遍的な現象である可能性について検討する。

 

            

      


<発表者プロフィール>   

見上 潤:音楽アナリスト、指揮者、ピアニスト。研究テーマ:テクスト・音楽・演奏を統一的に把握する「ことば・おと・こえの三位一体」の理論と実践。音楽言語学研究室、ドルチェカント研究会主宰。日本音楽理論研究会幹事。日本リズム学会、日仏現代音楽協会会員。国立音楽大学声楽学科卒。同大学院作曲専攻(作品創作)修了。

吉沢 頼子:
所属:日本リズム学会 全日本ピアノ指導者協会
学歴:武蔵野音楽大学音楽学部声楽科卒
主宰:吉沢ミュージックスタジオ
師事:ラファエル・ゲーラ先生(ピアノ)、ホアン・カルロス先生(ラテンパーカッション)、アルマンド先生(キューバダンス)
活動:ピアノ・ラテンパーカッション指導、ラテンバンド演奏とピアノアレンジ
 
植村 遼平:慶應義塾大学文学部美学美術史学専攻卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修了。現在、同大学院博士課程2年在籍。日本音楽学会東日本支部正会員。2023年より、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)次世代研究者挑戦的研究プログラム採択中。

佐竹 那月:慶應義塾大学文学部卒業、東京藝術大学大学院音楽研究科音楽文化学専攻(音楽学研究分野)修了、修士論文が優秀論文に選出される。現在、同大学院博士後期課程3年、日本学術振興会特別研究員(DC2)。同振興会「若手研究者海外挑戦プログラム」、公益財団法人花王芸術・文化財団からの研究助成(2023年度)等を得て、2023年10月よりハンブルク大学に留学中。

石野 香奈子:フランス語通訳・翻訳・通訳案内士。東京でグラフィックデザイン、パリで作曲、楽曲分析を学ぶ。現在、明治学院大学大学院文学研究科芸術学専攻博士後期課程在学中。2025年1月に博士論文「クロード・ドビュッシーの《12のエチュード》に見られるフランス鍵盤音楽の伝統と革新」を提出。

山路 敦司:作曲家。東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了。京都市立芸術大学大学院博士(後期)課程修了。スタンフォード大学客員研究員、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー修了を経て、現在、大阪電気通信大学総合情報学部教授。コンピュータ音楽やノイズ、映像音楽やゲーム音楽等を中心に領域横断する制作と研究活動を行う。