日本リズム学会

Japan Institute of Rhythm

日本リズム学会 第40回大会


日時:2024年3月30日(土)13:00〜17:00(仮日程/時間未定)
場所:ZOOM(URL:参加希望者に送付します)

 
入場:会員、非会員ともに無料 
 
 

下記スケジュールは参考/変更予定スケジュールです(随時更新いたします)。

オンライン入場 12:50(予定)

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【研究発表】13:00 民俗音楽

1.カーロウ ルイーゼ(ドイツ日本研究所 )

「山口の「鷺の舞」と津和野の「鷺舞」におけるリズムの考察」(15分)

 

2.川﨑瑞穂(聖心女子大学非常勤講師)

「神奈川県川崎市の「菅の獅子舞」における唄の範列化」(15分)

 

3.加藤勲(沖縄県立芸術大学大学院)

「ブラジルのエスコーラのサンバ音楽におけるリズムと調和の関係」(15分)

 

ディスカッション(15分)

 

【研究発表】14:00 芸術音楽 

4.佐竹那月(東京藝術大学大学院音楽研究科 博士後期課程2年)

「C. Ph. E. バッハのファンタジアへの音楽修辞学的アプローチ(仮題)」(15分)

 

5.見上潤(日本音楽理論研究会)

「旋法とは何か?(第15回)移調の限られた旋法第2番の用例研究――スクリャービン《ピアノソナタ第6番》作品62(1911-12)をめぐって―― 」(15分)

  

ディスカッション(15分)

休憩(15分)

  

【研究発表】15:00 ポピュラー音楽

6.山路 敦司(大阪電気通信大学総合情報学部)

「歌声合成ソフトウェアによるJ-POPへの革新的影響」(15分)

 

7.古澤彰(尚美学園大学 芸術情報学部准教授)

「デトロイトテクノにおけるブラックミュージックの系譜」(15分)

 

ディスカッション(30分)

     

16:00-17:00 情報交換会

     

17:00 終了予定

 
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問い合わせ: JIR事務局 office_jir08@yahoo.co.jp

研究発表要旨集                                                                                                                  

1.山口の「鷺の舞」と津和野の「鷺舞」におけるリズムの考察

カーロウ ルイーゼ

【発表要旨】

今回の発表では、山口の「鷺の舞」と津和野の「鷺舞」の音楽におけるリズムパターンを再検討する。そのためには、まず両者の歴史的背景を確認して行く。次に現地調査で得た情報を基に、現行の鷺舞における音楽のリズムに焦点を当て、山口と津和野の鷺舞のリズムパターンを比較する。その源流を探る過程で重要な手掛かりとなる狂言の演目《煎物》に着目し、分析していく。狂言の音楽で使われる囃子物におけるリズムについて考察し、それを山口と津和野のものと比較することによって、どちらが古態を留めているかを明らかにする。

今回の発表では、山口の「鷺の舞」と津和野の「鷺舞」の音楽におけるリズムパターンを再検討する。そのためには、まず両者の歴史的背景を確認して行く。鷺舞は京都の祇園御霊会に由来する。祇園御霊会とは、疫病をもたらす怨霊を退散させる行事である。平安時代初期に生まれ、室町時代にかけて大きく変わり、現在の祇園祭に展開してきた。その中で鷺舞が14世紀半ば頃から風流囃子物として行われたと推定できる。京都から山口や津和野に伝播し、現在まで伝承されてきた。一方、京都での伝承が途切れてしまい、現在にみられる鷺舞は近年に復活されたものである。なお、鷺舞の伝承を受ける山口の鷺の舞は1976年に県の無形民俗文化財に登録された。津和野の鷺舞が1994年に国の重要無形民俗文化財に指定され、さらに2022年にユネスコの無形文化遺産に登録された。このように国内外から価値があるものと認められているのは、一つには長い歴史があるからだろう。現在に伝わる古い要素はどこにあるのかという点を巡って、現地調査で得た情報を基に、現行の鷺舞における音楽のリズムに焦点を当て、山口と津和野の鷺舞のリズムパターンを比較する。それぞれの楽器編成や演奏されている音楽にいくつかの相違点が見受けられるため、それらを紹介した上、楽譜に書き起こしたものを見ていく。また、鷺舞の音楽の源流を探る過程で重要な手掛かりとなる狂言の演目《煎物》に着目する。この演目は、京都の祇園会における囃子物の稽古の場面を描き、発表ではまず、そのあらすじを紹介する。次に、近年の上演されたものを確認し、歌詞の比較を行なってから、音楽を分析していく。狂言の音楽で使われる囃子物におけるリズムについて考察し、それを山口と津和野のものと比較することによって、どちらが古態を留めているかを明らかにする。

  

2.神奈川県川崎市の「菅の獅子舞」における唄の範列化

川﨑瑞穂

【発表要旨】

東日本を中心に広範な分布を示す民俗芸能「三匹獅子舞」には、「唄」を伴う事例が少なくない。詞章の内容は地域によって異同があるものの、モチーフ等の共通点を有する類歌は多く、これまで様々な研究者がそれらの起源等について議論してきた。しかし、三匹獅子舞の研究の蓄積に比して、その唄の音楽的構造の解析、とりわけ個別事例の内的な構造の検討は必ずしも進んでいるとはいえない。本発表では、発表者が長年注目してきた「菅(すげ)の獅子舞」(神奈川県川崎市多摩区菅北浦)の唄のうち数曲を事例として採り上げ、音楽記号学における「範列化paradigmatisation」の方法に基づき、その構造を分析する。

東日本を中心に広範な分布を示す民俗芸能「三匹獅子舞」には、「唄」を伴う事例が少なくない。詞章の内容は地域によって異同があるものの、モチーフ等の共通点を有する類歌は多く、これまで様々な研究者がそれらの起源等について議論してきた。例えば「ジンヤク踊」との関連については関孝夫や入江宣子の論考があり(植木行宣・樋口昭編『民俗文化の伝播と変容』岩田書院、2017年所収)、その類似点は三匹獅子舞の唄の源流の一つが「西」にあることを示している。

筆者が長年研究してきた神奈川県川崎市の三つの三匹獅子舞(拙稿「川崎市の三匹獅子舞―その信仰と音楽―」『文化かわさき』第43号、川崎市総合文化団体連絡会、2022年、pp.7-10)にも、実に多彩な唄が伝わる。「菅(すげ)の獅子舞」(神奈川県川崎市多摩区菅北浦)は毎年9月12日に近い日曜日に行われるが、この芸能の詞章の中に、〽武蔵野で荻(おぎ)とすすきが恋をして」というものがある(拙稿「武蔵野で荻とすすきが恋をして―菅の獅子舞にきく秋の声―」『川崎研究』第62号、川崎郷土研究会、2024年5月刊行予定)。本発表では、近刊の拙稿にて論及できなかった同曲の音楽構造上の特徴について考えてみたい。

三匹獅子舞の唄の分析においては、音楽記号学における「範列化paradigmatisation」の手法が有効であると考えている(拙稿「三匹獅子舞における歌の範列分析―箱根ヶ崎獅子舞を事例として―」『研究紀要』第57集、国立音楽大学、2023年、pp.31-41)。菅の獅子舞の前掲楽曲を事例として、詞章の意味ではなく旋律・リズムの「モチーフ」を束にして分析を試みた結果、いくつかの限られたモチーフの組み合わせによって成り立っていることがわかった。さらに、それらのモチーフをより細分化してみると、より複雑な構造が明らかになった。本発表ではその結果を紹介し、三匹獅子舞の唄の音楽的構造の解析、とりわけ個別事例の内的な構造の検討の必要性を指摘する。

   

3.ブラジルのエスコーラのサンバ音楽におけるリズムと調和の関係

加藤勲

【発表要旨】

本発表でブラジルのエスコーラのサンバ音楽のリズムと、調和の関係について報告する。エスコーラのサンバ音楽のリズムを分析する為に、パレードの録音音源を波形解析した。エスコーラのサンバ音楽は、コンテストで好成績を収める事で、エスコーラという団体のブラジル社会内での地位と、経済的地位を向上させる事を目的として作られる。この音楽の特徴と、エスコーラのコミュニティに属さないサンパウロ市民が「道のカーニバル」で演奏するエスコーラのサンバ音楽を対照し、その特徴であるリズムは誰が有するかについて述べる。

本発表でブラジルのカーニバルに見られるエスコーラのサンバのリズムと、調和の関係について報告する。対象としたのは、20世紀初頭にリオ連邦区で成立したパレード・コンテストに出場する団体エスコーラと、2014年にサンパウロ市政府によって整備された「道のカーニバル」のサンバを行う団体のブロコを比較対照した。エスコーラのサンバ音楽を定義する為に、サンバ協会らが発行するパレード要領を基にその審査項目を整理した。これをもって、エスコーラのサンバ音楽の要素を詳述した。次に、エスコーラのサンバ音楽のリズムを分析する為に、パレードを録音した音源を波形解析した。この波形を分析する事で、そのリズムと調和の関係を明らかにした。エスコーラのサンバ音楽は、コンテストで好成績を収める事で、エスコーラという団体のブラジル社会内での地位と、経済的地位を向上させる事を目的として作られる。エスコーラのサンバは、それに合うリズムを持ち、パレードを表現する歌詞を作り、その歌詞を表現する為に旋律が用いられる。カーニバル・パレード・コンテストで打楽器隊とパレード参加者全員(最低1500名)の歌唱が評価され、不協和音や和音進行は評価されない。この音楽の特徴について、エスコーラらが多く存在するサンパウロ市のサンバを対象とした研究成果を報告する。まず、サンバとカーニバルに関連する歴史背景を概観し、次にエスコーラの音楽要素の分析結果を述べる。続いて、エスコーラのコミュニティに属さないサンパウロ市民が自由にカーニバル時期のサンバの音楽と踊りを楽しめるようになった「道のカーニバル」によって変容したエスコーラのサンバ音楽を分析し、サンバの音楽の特徴であるリズムは誰が有するのかについて述べる。

   

4.C. Ph. E. バッハのファンタジアへの音楽修辞学的アプローチ(仮題)

佐竹那月

【発表要旨】

鍵盤楽器のための「自由ファンタジー」は、器楽で自らの感情を「語る」ものであることから、C. Ph. E. バッハや同時代作曲家のファンタジアの修辞学的分析が行われてきた(Poos 1987, 他)。本発表では、C. Ph. E. バッハのファンタジア数曲を例に、終止及び、PACを回避し聴き手を驚かせる様々な手法が修辞学的にどのような機能を有しているか、主に和声的モティーフの展開に着目し考察する。「自由ファンタジー」にある一定の秩序を見出そうとする本発表は、後の時代にさらに結びつきを強める「自由ファンタジー」とソナタ形式原理との関連の考察にも役立てられるだろう。

本発表の目的は、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(以下、C. Ph. E. バッハ)(1714~1788) のファンタジア数曲を例に、終止及び、完全終止が遮られる箇所において、聴き手を驚かせる多様な手法が修辞学的にどのような効果をもたらしているか明らかにすることである。
18世紀中葉、C. Ph. E. バッハらドイツ語圏の音楽家を中心に、「自由ファンタジー」、つまり鍵盤楽器での即興演奏が隆盛した。この種のファンタジーは当時から器楽による「語り」と見なされ、しばしば修辞学や文学と関連づけられ叙述されてきた。先行研究では、Poos(1987)が、C. Ph. E. バッハの《自由ファンタジー 嬰ヘ短調》H. 300, Wq. 67(1787)におけるニュアンスに富んだ楽曲構造を、修辞学の用語を用いて和声的・旋律的モティーフ間の複雑な関係を分析しながら説明している。また、終止に関してはCaplin (2004)が、リズム、拍子、テクスチュア、強弱といった、音楽的パラメータの全領域を包含する終止の「修辞学的」側面を、和声的・旋律的内容のみに基づくその「統語的」側面と対比させ論じている。それらの研究を踏まえ、発表者は、ファンタジアの曲中に現れる終止の中でも、完全終止を遮る手法、すなわち偽終止やEvaded Cadence(Schmalfeldt 1992)等が用いられる箇所にとりわけ着目する。その手法では、聴き手の意表を突く特有の和声進行に、休符の挿入、テクスチュアや強弱の変化といった「修辞学的」側面が同時に伴うことが多い。それらの箇所における各パラメータの変化や、それらの表現が楽曲全体の文脈の中でもたらす効果を分析的に考察する。そして、ジャンルをこえて「自由ファンタジー」的書法を分析する新しい基準の提示も試みたい。本発表は、他ジャンルとの関連も含めた「自由ファンタジー」の複雑な全体像に迫り、鍵盤音楽史に新たな洞察を与える第一歩になるだろう。

   

5.旋法とは何か?(第15回)移調の限られた旋法第2番の用例研究

――スクリャービン《ピアノソナタ第6番》作品62(1911-12)をめぐって――

見上潤

【発表要旨】

本発表は、移調の限られた旋法第2番(M.T.L.2)の用例研究として、スクリャービン《ピアノソナタ第6番》作品62(1911-12)の作品分析を行う。移限音素材の一つであり、ロマン派から多用され始めたM.T.L.2は、そのシンメトリカルな構造に由来する非調的な音素材ではあるが、増3和音や減7和音などの移限音素材と同様に調的な意味を持ちうる。また、減7和音、属7和音、フランス6の和音、クリスタル和音、西風音階などの諸音素材を内包し、かつソノリティーにも重要な役割をもたらす。このM.T.L.2が多用されているスクリャービン《ピアノソナタ第6番》の分析を通じてその意味論について考察する。

本シリーズでは、これまでスクリャービンのピアノソナタに関して、半音階的なトリスタン和声実習とも言える《第4番》、および全音階法(diatonism)の復権が行われている《第5番》を分析してきた。今回は後期作品である《第6番》を取り上げる。調号が放棄され、一般に無調期への突入とさえ言われているこの《第6番》は、確かに《第5番》以前とは大きく異なる様相を呈しており、調性の確定、和音分析、階名分析(移動ド)のどの位相においても分析者は更なる困難に遭遇する。提示・展開・再現・終止に区分できる典型的なソナタ形式の枠組みは保持されてはいるものの、調的対応は従来の骨格とは大きく異なっている。何といっても、その最大のメルクマールは、移限音素材の一つであり、ロマン派から多用され始めた「移調の限られた旋法第2番(M.T.L.2)=8音音階(octatonic scale)」の広範な使用ではあるまいか。また、この《第6番》の諸主題および諸動機それ自体さえもが、M.T.L.2の様々な展開形態によって各部分が構成されている。M.T.L.2は、そのシンメトリカルな構造に由来して非調的な音素材ではあるが、増3和音や減7和音などの移限音素材と同様に調的な意味を持つ可能性がある。同時に、減7和音、導7和音、短7和音、属7和音、長短属9和音、フランス6の和音、諸クリスタル和音、西風音階、その他の高次和音などの諸音素材を内包していることによって、ソノリティーの形成にも重要な役割をもたらしている。

 本発表は、スクリャービン《ピアノソナタ第6番》作品62(1911-12)の分析によって、基礎的な音素材の一つであるM.T.L.2の豊富な用例を集め、その意味論について考察する。更に、近現代和声への射程拡張を展望する島岡ゆれ理論の観点から、調性は維持されているのか放棄されているのかを問い、初期・中期スクリャービンとの連続性および非連続性に関する考察も行う。

  

6.歌声合成ソフトウェアによるJ-POPへの革新的影響

山路 敦司

【発表要旨】

ボーカロイドに代表される歌声合成ソフトウェアの登場と認知度の一般化に伴い、日本の音楽シーンは音楽聴取体験の民主化と音楽的嗜好の多様化が顕著に進んだと言える。特にJ-POPにおける音楽構造的な独創性が際立ち、従来の日本の歌謡曲の系譜とは異なる、複雑で個性的な楽曲が量産・発信され、その結果J-POPのグローバル化を推し進める要因となった。このような革新的な変化について、昨今における音楽制作環境と音楽教育の現場における視点から、歌声合成ソフトウェアを用いて制作された楽曲の音楽的構造とユーザー(聴取者=制作者)への影響について考察する。

 

ボーカロイド(VOCALOID)に代表される歌声合成ソフトウェアの登場は、J-POP音楽シーンに革新的変化をもたらした。それは、仮想ボーカリストとして独自のキャラクター性を持つ音楽ソフトウェアとしての枠を超え、広く知られる存在となり、日本の新しい音楽文化に大きく貢献していると言える。DAW(Digital Audio Workstation)を活用した歌声合成ソフトウェア楽曲制作は、従来必要であった音楽的素養や経験、および歌唱能力などの要素を必要最低限に抑え、その制作の敷居を下げることに成功した。その結果、多くのユーザーが参入し、プロとアマチュアの間の障壁が取り除かれた。これにより、インターネット上で楽曲が大量に発表・共有され、従来の枠にとらわれない多様なスタイルやジャンルが生まれ、音楽の聴取体験が民主化し、新たなアイデアの表現や音楽的嗜好の多様化が進んだと考えられる。また、ソフトウェアが提供する支援機能やインターフェースデザインにより、従来の常識的な作曲手法では得られなかった広範な音域や高速なリズムなど、人間の歌唱能力を超えた複雑で独創的な音楽要素が容易に取り入れられるようになった。これにより、世界中に発信される多くの楽曲が生まれ、J-POPの国際的な受容性を高める要因となった可能性がある。
一方、最近の音楽教育の現場においてもデジタル技術を導入した音楽制作を採用する事例が多く見られる。特に、歌声合成ソフトウェアによるポピュラー音楽制作を通して、初学者の潜在的な音楽的素養や能力(例えば、制作した楽曲が音楽理論的に整合しているかどうか)などが引き出される可能性として指摘されている。
この観点から、音楽制作と音楽教育の現場において、歌声合成ソフトウェアがJ-POP音楽シーンに与える革新的な影響について考察し、その現状に通底する受容性の展望について検討する。
 

  

 

7.デトロイトテクノにおけるブラックミュージックの系譜

古澤彰

【発表要旨】

ブルースやロックなどにおいて顕著なように、一般的な音楽シーンでは黒人音楽が起源となり、その後にそのジャンルの表現に白人が加わることで商業的にも大きくなり、社会的にも音楽ジャンルとして普及するパターンが多い。これは80年代以降のヒップホップなども同じ流れと言える。今回はそのパターンの中でも、デトロイトテクノに着目して分析を行う。ハウスミュージックが興隆するきっかけとなったシカゴ近郊のデトロイト地区にて80年代に生まれたテクノミュージックがデトロイトテクノである。今回はそのデトロイトテクノが、その後の音楽シーンにどの様な影響を与えたかについて発表する。

 

ブルースやロックなどにおいて顕著なように、一般的な音楽シーンでは黒人音楽が起源となり、その後にそのジャンルの表現に白人が加わることで商業的にも大きくなり、社会的にも音楽ジャンルとして普及するパターンが多い。これは80年代以降のヒップホップなども同じ流れと言える。今回はそのパターンの中でも、デトロイトテクノに着目して分析を行う。
ハウスミュージックが興隆するきっかけとなったシカゴ近郊のデトロイト地区にて80年代に生まれたテクノミュージックがデトロイトテクノである。デトロイトテクノは、その後、90年代以降のクラブミュージックに大きな影響を与えることとなった。デトロイト在住のホアン・アトキンス、デリック・メイ、ケヴィン・サンダーソンの3人によって創作された一連の楽曲群がきっかけとなり、その後にヨーロッパを中心に世界的な規模で影響を与えることとなった。その特徴は、それまでのエレクトロニックミュージックを下地にしつつも、リズムマシーンやシンセサイザーによるシーケンスや、抒情的なシンセストリングスによって構成される点である。
また同時期にはシカゴではDJピエールによるローランドのTB-303を駆使したアシッドハウスが誕生する。アシッドハウスはTB-303のシーケンスをカットオフやレゾナンスを曲に合わせて操作することで、独特のグルーヴ感を演出することが特徴である。デトロイトテクノとアシッドハウスにより、後のクラブミュージックにおいてテクノが確立されたと言っても過言ではない。今回はそのデトロイトテクノの歴史や、後の音楽シーンに与えた影響に関して発表を行う。
 


 

           

      


<発表者プロフィール>   

カーロウ ルイーゼ:発表者はドイツのベルリン出身で2011年にベルリンのフンボルト大学を卒業し、東京の法政大学大学院に進学する。専門は「日本学」、その中で日本の伝統芸能と文学に重点を置き、「鷺舞」をテーマに研究を進める。2021年に博士課程を修了した後、東京にあるドイツ日本研究所に就職しする。子育てをする中、研究活動に励む。

 

加藤勲:2000年よりドラム、パーカッションを演奏する音楽家として活動を始め、2014年にブラジルのソウザリマ音楽大学打楽器科に進学。在学中にエスコーラ・ジ・サンバの打楽器隊に参加。2022年から沖縄県立芸術大学にてカーニバルとサンバを対象としたリズムの研究を行う。

 

佐竹那月:慶應義塾大学文学部卒業、東京藝術大学大学院音楽研究科音楽文化学専攻(音楽学研究分野)修了、修士論文が優秀論文に選出される。現在、同大学院博士後期課程2年、日本学術振興会特別研究員(DC2)。同振興会「若手研究者海外挑戦プログラム」、公益財団法人花王芸術・文化財団からの研究助成(2023年度)等を得て、2023年10月よりハンブルク大学に留学中。

 

川﨑瑞穂:聖心女子大学非常勤講師。川崎市教育委員会文化財調査員(民俗)。民俗芸能学会理事。国立音楽大学大学院博士後期課程修了、博士(音楽学)。ソルボンヌ大学博士課程交換留学。著書『徳丸流神楽の成立と展開―民族音楽学的芸能史研究―』第一書房(2018年・「第1回小島美子・藤井知昭記念日本民俗音楽学会賞」受賞)。

 

見上潤 :音楽アナリスト、指揮者、ピアニスト。研究テーマ:テクスト・音楽・演奏を統一的に把握する「ことば・おと・こえの三位一体」の理論と実践。音楽言語学研究室、ドルチェカント研究会主宰。日本音楽理論研究会幹事。日本リズム学会、日仏現代音楽協会会員。国立音楽大学声楽学科卒。同大学院作曲専攻(作品創作)修了。

 

山路 敦司
作曲家。東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了。京都市立芸術大学大学院博士(後期)課程修了。スタンフォード大学客員研究員、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー修了を経て、現在、大阪電気通信大学総合情報学部教授。コンピュータ音楽やノイズ、映像音楽やゲーム音楽等を中心に領域横断する制作と研究活動を行う。 

 

古澤彰

尚美学園大学•芸術情報学部音楽応用学科准教授。日本リズム学会理事。エレクトロバンドLOWBORN SOUNDSYSTEMにてリーダーを務め、ほぼ全曲の作詞作曲を行う。個人名義では室内楽を中心に作曲し、またDJとしても活動している。