日本リズム学会

Japan Institute of Rhythm

2021年度 大会・総会の御案内

新型コロナウィルスの感染拡大がなかなか収束しないため、昨年度に引き続き今年度も総会と大会を遠隔で開催します。
今回も大会参加費は無料といたします。ただし会員のみ参加可能です。非会員の方で参加希望の方は、恐れ入りますが、まずはご入会ください(入会方法は当会のホームページをご覧ください)。
出席予定の方は下記のフォームからお申し込みください。お申し込みされた方々に、こちらからZoomのURLをメールにてお送りします。
総会欠席の方は、下記のフォームから委任状をご提出ください。
可能であればZoomが事前に使用可能であるかどうかテストください。当日は進行時間の関係上、参加者個別でのトラブルや機器不具合には対応できかねる場合がございます。あらかじめご了承ください。
ふるってご参加ください!

【日 時】

2022年3月28日(月)

総会 11:30~12:30

大会 13:20~17:00

【場所/参加費】

オンライン(ZOOM)にて実施、参加費無料(会員のみ参加可)

総会議題:2020年度活動・会計報告、2021年度活動・会計計画ほか。

 

【参加方法】
1.3月27日(日)までに 下記のQRコードまたはURLから、申し込みフォームにアクセスしてお申し込みください。

2.申し込んだ会員の方には開催当日に、ZOOM参加のためのURLをメールでお知らせします。

3.総会欠席の方はこのフォームで委任状も提出できます。

4.出席の方は、時間になりましたらZOOMにお入りください。時間内は出入り自由です。

 
 

    


          

38回 大会プログラム

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オンライン入場 13:20(予定)

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1.【研究発表】13:30-13:50

旋法とは何か?(第13回)  

島岡ゆれ理論と音素材分析――スクリャービン《ピアノソナタ第4番》作品30(1903)第1楽章の分析――

見上

   

2.【研究発表】13:50-14:10  

ビリー・ジョエルとベートーヴェン —“This Night ”における“悲愴”の旋律—

宇野 友子 

     

3.【研究発表】14:10-14:30 

日本とブラジルのサンバの差異
- エスコーラ・ジ・サンバの サンバ・エンヘード を事例に -

加藤 勲

     

4.14:30-14:50 

ディスカッション1

       

5.  14:50-15:10

休憩

        

6.【研究発表】15:10-15:30 

筒美京平のソングライティング手法における旋律分析の検討

山路 敦司

    

7.【研究発表】15:30-15:50

日本芸能史における「聖三打」のモチーフ―関東地方の神楽囃子を中心に―

川﨑 瑞穂

       

 8.【研究発表】15:50-16:10 

唱歌の歌詞と小節線との関係について

安田 寛

     
9.16:10-16:30

ディスカッション2

     

10.16:30-17:00

情報交換会

     

17:00 終了


研究発表要旨集                                                                                                                  

1.旋法とは何か?(第13回)  

島岡ゆれ理論と音素材分析――スクリャービン《ピアノソナタ第4番》作品30(1903)第1楽章の分析――

見上 潤

【発表要旨】

調性音楽の作品分析に根本的に変革をもたらした島岡譲の音楽理論は、1958年以来4段階の発展を遂げてきた。その最新の成果である『総合和声』(1998年)では、その理論の核心部分である「ゆれ理論」を、古典的和声を越えて、ルネサンスからドビュッシー、ラヴェルなど近現代作品にまで射程を広げてきた。本シリーズではこれまで、この理論を検証すべく、様々な近現代作品への応用、そしてこの理論を補うための考察を行ってきた。本発表は、スクリャービン後期作品分析への足掛かりとして、中期の代表作である、《ピアノソナタ第4番》作品30(1903)第1楽章をこの観点から分析を行う。

 

2.ビリー・ジョエルとベートーヴェン —“This Nhght “における“悲愴”の旋律—
宇野 友子

【発表要旨】

 我々は日々、新しい楽曲を耳にしている。ある曲を聴き、その曲に魅力を感じる時、何がそう思わせるのだろうか?耳馴染みの良いメロディ、予測できそうな和声進行やリズム、興味深い歌詞など、その漠然とした印象を具体的に探って行くと、それまでの音楽経験を基にその曲をある特定の音楽ジャンルに当てはめているのではないだろうか。
 本研究で取り上げるロック・アーティストであるビリー・ジョエルが1983年に発表した“This Night”は、ロック・バラード・ナンバーである。この曲はベートーヴェンが1798年から1799年にかけて作曲したピアノソナタ第八番『悲愴』の第二楽章の旋律の一部を借用している。そして1960年前後に流行ったR&Bのひとつであるドゥーワップ的アプローチを用いて、全体としてはロック・バラードのスタイルに仕上がっている。取り入れられた各音楽ジャンルは異なる3つの時期に現れ、1983年の発表まで約200年間の時間が流れている。
また、この曲がヒットした1980年代のポピュラー音楽はニュー・ウェイヴが時流の音楽であり、一方ポスト・ディスコミュージック、ファンクの特徴を持ち、ビートの効いた楽曲のマイケル・ジャクソンの“スリラー”が全米No,1アルバムとなっていた。その中で、この曲は特異な存在となっている。
本研究では、ジョエルが“悲愴”のメロディをどのように取り込み、ロック・バラードに融合させたか分析を試みる。それぞれに異なる時代に現れたクラシック音楽、ポピュラー音楽であるドゥワップ、ロックの各音楽要素を見出しながら、“悲愴”と“This Night “を比較し、その違いと融合のポイントは何であったか、また歌詞が付き歌になったことによる変化などを考察していく。

    

『日本とブラジルのサンバの差異
- エスコーラ・ジ・サンバの サンバ・エンヘード を事例に -』

加藤 勲

【発表要旨】

 ブラジルを代表する文化の一つであるサンバは、毎年の謝肉祭の時期に行なわれるサンバ・カーニバル・コンテストのパレードで最も知られている。ブラジルのサンバは、19世紀終わり頃の遷都後のリオデジャネイロで始まったと言われており、現在ではブラジル各地でサンバ・カーニバル・パレードが開催されている。日本でも、1971年の神戸まつりから始まり、現在でサンバ愛好団体が各地に存在している。ブラジルと日本、両者のサンバ・パレードにおける表現は基本的には共通しているが、楽曲面で大きな差異が存在する。
 日本最大のサンバ・パレードである、浅草サンバカーニバル実行委員会の「コンテスト出場チーム規定」には「ブラジル リオ・デ・ジャネイロスタイルのサンバカーニバルを目指す浅草サンバカーニバルパレードコンテスト」とあり、ブラジルのサンバを目標としている事が明記されている。
両者がパレードで奏でる楽曲のタイプや基本的なフレーズ、使用する楽器類は、本場ブラジルと概ね同じである。現在ではインターネットやSNSの普及により、日本国内でも、ブラジル現地のサンバ情報は豊富に閲覧する事が可能となっているほか、ブラジルのサンバ演奏者やサンバチームの監督などが実際に来日し、サンバ・ワークショップの開催や、浅草サンバ・カーニバル・コンテストにゲスト出演するなど、ブラジルのサンバ関係者との直接的な交流が盛んに行なわれている。
 本発表では、ブラジルと日本のサンバ・パレードにおいて、どのような差異が存在するのかを、楽曲の演奏を担う打楽器奏者の視点から比較・検討を行なう。(6文字)

     

6.『筒美京平のソングライティング手法における旋律分析の検討』

山路 敦司

【発表要旨】

昭和の歌謡界を代表する作曲家・筒美京平(1940-2020)の楽曲に見られる音楽的特徴とソングライティング手法に注目し、その音楽的独自性がリスナーの聴取心理に与える影響もふまえながら、希代のヒットメーカーと呼ばれた作曲家像を浮き彫りにすることを試みる。本発表では筒美の代表作である《木綿のハンカチーフ》(1975)を一例として分析を実施し、その旋律の中に見られる音高遷移・旋法・リズムほかによる音楽刺激が、聴取者に直感的に響きつつも楽曲構造の中で巧妙に設計された音楽情報デザインによるものであることを明らかにした。

                             

7.『日本芸能史における「聖三打」のモチーフ―関東地方の神楽囃子を中心に―』

川﨑 瑞穂

【発表要旨】

関東地方の神楽囃子における《三つ拍子》などと呼ばれるリズム型は、「短いリズムの繰り返し」という点でつながった大きなヴァリアント群を形成している。本発表では、《三つ拍子》が太鼓の「三打」を象徴的に用いることに注目し、芸能史における三打の例と比較検討する。
例えば、柳亭種彦(1783-1842)の考証随筆『柳亭筆記』における「岡崎」と「柴垣」(流行歌)の説明には「岡崎、柴垣は寛永の頃ならびおこはれし小唄なり、岡崎は足にて拍子をふみ柴垣は手にて拍子をうつものにて近き頃流行せしてんてツとんの類ひなるべし」とある。この「てんてツとん」が「岡崎」と「柴垣」のどちらを説明しているかは不明だが、前述の《三つ拍子》は「テケテットン」という唱歌(しょうが)や通称(あるいはそれに類似する名称)で伝わっていることが多く、足拍子に合わせて使用することも多い。
さらに芸能史を遡れば、『梁塵秘抄』四旬神歌265に、「金の御嶽にある巫女の。打つ。鼓、打ち上げ打ち下ろし面白や、我等も参らばや、ていとんとうとも響き鳴れ」(以下略)という巫女の奏楽の表現がある。「てんてツとん」や「ていとんとう」といった、何らかの「数」を象徴的に用いるリズム型(とりわけ「三つの音」)を、いわゆる「長期持続la longue durée」(マルク・ブロックほか)の心性史として描くことができるのではあるまいか。
もっとも、三つの音によって聖なるものを表現したり聖なるものに働きかけたりする心性は固有のものではない。さらに視野を広げてみれば、土田定克はラフマニノフの諸作品から「聖三打」の意味論(2017)を展開している。もっとも、そこでは「聖三打」が「行進」と結び付けられているのに対し、《三つ拍子》は「儀礼的跛行」と結び付けられている。ただ、両者とも「歩行」との「距離」において考えられている点は共通している。本発表では最後に、より広い視野で民俗芸能におけるリズム型の意味論を展開する必要性を指摘する。

       

8.『唱歌の歌詞と小節線との関係について』

安田 寛

【発表要旨】

幕末から明治のはじめにかけて欧米から讃美歌が入ってきて、日本は歌の新しいリズムが必要になった。それで生まれたのが唱歌のリズムだった。その新しいリズムを私は天皇制のリズムと呼んでいる。明治二六年の祝日大祭日唱歌で完成したのがこのリズムだったからだ。本発表では、天皇制のリズムが形成される過程と特徴を文節という日本語の文節という単位に着目して明らかにする。文節に着目するのは、文節は日本語のリズムで重要な働きをするからである。それはドイツ語や英語の単語にあるアクセントに相当する、といえば分かりやすいかもしれない。日本語を読む、朗読する、唱える、歌う、これらのすべてにわたって重要な働きをするのが文節である。文節は日本語のリズムの基本であり,したがって日本語の歌のリズムのすべてにわたって重要な働きをする。今回分析する曲は、保育唱歌三曲と祝日大祭日唱歌八曲である。方法は,保育唱歌の拍子である早拍子と閑拍子と五線譜で表される拍子との関係を明らかにしたうえで,歌詞の文節の切れ目が一致している音符が,小節線(全音符),二分音符,四分音符,八分音符なのか,順次当てはめていき,最初に一致した音符が文節の切れ目と一致している音符である。それを簡単に統計処理して、一曲の中で、小節線(全音符)、二分音符、四分音符、八分音符が一致している割合を明らかにする。以上によって明らかになることは、保育唱歌三曲から祝日大祭日唱歌八曲にかけて形成されたリズムの特徴は、文節の切れ目を小節線に一致させるというものである。その一致率は祝日大祭日唱歌八曲では、92パーセントに達する。このように文節の切れ目,したがって文節の歌い出しを小節線に一致させるリズムが五線譜で表されるリズムと日本語のリズムとを融合させることで最初に生み出された新しい歌のリズムであった。

      


<発表者プロフィール>   

見上潤

音楽アナリスト、指揮者、ピアニスト。研究テーマ:テクスト・音楽・演奏を統一的に把握する「ことば・おと・こえの三位一体」の理論と実践。音楽言語学研究室、ドルチェカント研究会主宰。日本音楽理論研究会幹事。日本リズム学会、日仏現代音楽協会会員。国立音楽大学声楽学科卒。同大学院作曲専攻(作品創作)修了。

        

宇野 友子

看護師として大学病院勤務、その後フェリス女学院大学音楽学部、同大学院卒業。ポピュラー音楽研究を川本聡胤氏、ジャズ・ボーカルを斉田佳子氏に師事。研究テーマは、アメリカのポピュラー音楽。フェリス女学院大学音楽学部副手。

 

加藤 勲

音楽家、打楽器奏者。研究テーマ:サンバ打楽器から見える、リズムと伝承・伝搬。(仮) 。日本リズム学会、日本ラテンアメリカ学会会員。2016年ソウザ・リマ大学 Nucleo Percussao SL Bateri科・Percussao科卒。2022年4月より沖縄県立芸術大学大学院音楽学専攻進学予定。

                 

山路 敦司

作曲家。東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了。京都市立芸術大学大学院博士(後期)課程修了。スタンフォード大学客員研究員、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー修了を経て、現在、大阪電気通信大学総合情報学部教授。

     

川﨑 瑞穂

博士(音楽学)。非常勤講師(聖心女子大学・東京電機大学/大学院・西武文理大学・国立音楽大学・桜美林大学)。単著『徳丸流神楽の成立と展開―民族音楽学的芸能史研究―』第一書房、2018。民俗芸能学会、日本民俗音楽学会理事。

      

安田 寛

奈良教育大学名誉教授。単著に『バイエルの謎』(音楽之友社、2012年、新潮文庫、2016年)、共著に『仰げば尊し』(東京堂出版、2015年),『バイエルの刊行台帳』(音楽之友社、2021年)等がある。