Japan Institute of Rhythm |
第60回例会
日本リズム学会 第60回例会
日時:2025年8月23日(土)13:10〜16:00
場所:国立オリンピック記念青少年総合センター センター棟 503号室(Zoom併用)
参加費:正会員無料、非会員1,000円
ハイブリッド開催(オンライン参加者にはお申込み後にURLを送付いたします)
お申し込み/お問い合わせ: JIR事務局 office_jir08@yahoo.co.jp
受付 13:10から
~ ~ ~ ~ ~ ~ プログラム ~ ~ ~ ~ ~ ~
13:30 開会
【研究発表1】
発表13:30〜14:00
소녀시대 《다시 만난 세계》における音楽的意味論に関する考察
見上潤(音楽言語学研究室、日本音楽理論研究会)
【研究発表2】
発表14:00〜14:30
人生の休符「キャリアブレイク」からみる社会リズムの可能性
北野貴大(キャリアブレイク研究所)
休憩14:40〜14:45
【研究発表3】
発表14:45〜15:15
阿波踊りの拍節と現代風編曲に関する考察
古澤彰(尚美学園大学/LOWBORN SOUNDSYSTEM)
【ディスカション】
発表15:15〜16:00
16:00 閉会
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タイトル:
소녀시대 《다시 만난 세계》における音楽的意味論に関する考察
見上潤
音楽言語学研究室、日本音楽理論研究会
要旨:
소녀시대(少女時代)のデビュー曲である《다시 만난 세계(また巡り逢えた世界)》(2007年)は、2016年の梨花女子大学校学生運動のプロテストソングとして歌われるようになった以降、同年の朴槿恵大統領退陣運動、2017年からソウルのクィア・パレード、2019年の堕胎罪無効化判定事の集会、さらには、2019年から2020年の香港民主化デモや、2020年から2021年のタイ・バンコクでのデモ等でも歌われ、国際的な広がりを持つに至った。2024年12月の韓国国会議事堂前で行われた尹錫悦大統領退陣要求デモにおいては、デモ参加者がペンライトを手にし、デモがライブコンサートの様を呈した。他方、K-POPダンスの定番として、アジアのみならずヨーロッパやロシアその他の国々のダンス動画がネット上に非常に多く存在している。
さて、この楽曲がこれほどまでの広がりを持つに至った魅力とは何であろうか?韓国語を母語とする人々にとってはその歌詩の意味内容のウエイトが大きいことは言うまでもない。他方、国際的な広がりを持つことからは音楽それ自体にも魅力があることが推測される。したがって本発表は、この楽曲の旋律、和声、リズム等の音楽的統語論の分析とともにそれらの音楽的意味論についての考察する。
旋律的側面においては、前奏とサビに使用されている琉球のトリコルドが強い特徴を示している。和声的側面においては、機能和声の骨格は保たれてはいるものの、主調e mollと平行調のG durとの自在な往復、紋切り型のV→Iの進行の回避、中間部分で1回だけしか登場しない全終止、半音ではなくて全音上行(e moll→fis moll)による最後の盛り上がり、前奏はG durのIV→Vのゆれ、後奏はfis mollの半終止の後のG durのVでの半終止などのトニック回避、等々興味深い楽曲構成が行われている。また単純な繰り返しを避けるための微細な旋律の変化や、最終部分の盛り上がりを飾り立てるオブリガート、器楽伴奏アレンジ部分等、その他様々な工夫が観測しうる。韓国語ディクションにおけるリズム処理も見逃せない。こうした様々な要素の集積によってこの楽曲の魅力が形成されている。
タイトル:
人生の休符「キャリアブレイク」からみる社会リズムの可能性
北野貴大
キャリアブレイク研究所
要旨:
近代以降の日本社会は、工業的な生き方――入力が決まれば出力も予測可能な、均質で直線的なキャリアパス――を前提としてきた。しかし近年、経済・技術・社会構造の変化により、このモデルは揺らいでいる。これからの時代は、答えのない中で試行錯誤しながら形をつくる、いわば芸術的な生き方への転換期にあると考えられる。だが誰もが芸術家のように自由を扱えるわけではなく、予測不能さは不安を伴う。そこで重要となるのが、「生き方のリズム」と「意図的な休符」である。音楽において休符は無意味な空白ではなく、次の音を引き立てる必然的な要素だが、生き方ではその重要性が十分に認識されていない。
本研究では、一時的に働くことから離れる「キャリアブレイク」という欧州の文化に着目した。日本では制度も名称も普及していないが、言葉を知らずに実践している人々が存在する。彼らを対象にインタビューやアンケートを行い、事例の収集・類型化・意義や効果の整理を行った。その結果、キャリアブレイクは創造性の回復、価値観の再編、人間関係の再構築など、多面的な効果を持つことが明らかになった。また、職務パフォーマンス向上や組織の多様性促進といった社会的効果も確認された。
私はこの成果を、書籍やメディアを通じた社会啓発、サードプレイスを紹介するサイト運営、企業や自治体への制度導入支援など、実践活動に結びつけている。これらを通じて次の時代の「社会リズム」を創出し、日本における休符文化の定着を目指す。不確実な時代において、キャリアブレイクという“意図的な休符”は、個人の創造性と社会の持続性を高める有効な方法である。
タイトル:
阿波踊りの拍節と現代風編曲に関する考察
古澤彰
尚美学園大学/LOWBORN SOUNDSYSTEM
要旨:
徳島県の阿波踊りは江戸時代前後に発祥し約400年の歴史があり、秋田県の西馬音内盆踊り、岐阜県の郡上踊りと並び、日本三大盆踊りの一つである。また現代では毎年7月から9月にかけて徳島県以外でも日本全国の各地で阿波踊りが開催され夏の風物詩と言える。その中でも特に東京の高円寺、埼玉の南越谷は来場者数が多く、徳島市と共に日本三大阿波踊りと呼ばれ例年、数十万人から100万人前後の来場者となり国内外から来場者が集まるため、まさに街をあげての一大イベントである。
阿波踊りでは、踊る団体を連と呼ぶ。徳島と高円寺の振興会や協会に所属する連だけでも、それぞれ数十連ずつ存在するため、全国各地の連を合わせるとかなりの数の連が存在する。その一方で阿波踊りにおける踊りの主流は大きく四つに分かれる。のんき調、娯茶平調、阿呆調は三大主流と呼ばれ、それぞれに拍節感が全く異なることが、現代の阿波踊りの特徴である。三大主流の他には伝統的な阿波踊りの基本が2拍子であることに対し、1968年発足した苔作調は打楽器による性急なリズムが特徴で1拍子系とも呼ばれている。
また阿波踊りにおけるお囃子ぞめきは篠笛、三味線、打楽器による生演奏であり、録音物を使用しないことも特徴である。筆者はそれらの日本民謡特有の拍節感や演奏面に着目し、阿波踊りで演奏されるぞめきを現代のテクノミュージック調に編曲する取り組みを行い2025年3月に楽曲をリリースした。本楽曲のミュージックビデオが海外を中心に視聴され、2025年8月時点で60万回以上の再生数となっており、最近では海外からのインバウンド旅行者がSNSで投稿する日本観光のVlogにおいて本楽曲をBGMに使用するケースも多い。そのため今回は主流による拍節感の違いの考察と、現代風に編曲する上でどの様な観点で制作に取り組んだかの解説を行う。