日本リズム学会 

Japan Institute of Rhythm

57例会 
 


 旋法とは何か? (第11回) 5度音程による音素材

―ラヴェル《水の戯れ》におけるその用法と他の音素材との関連性に関する考察―

見上潤(音楽分析学研究会


ラヴェル(Joseph-Maurice Ravel, 1875-1937)が26歳の時に作曲したピアノ曲《水の戯れ》(Jeux d'eau, 1901)は、後期ロマン派の和声語法の延長線上にありながらも多くの新たな挑戦に満ちた作品である。本発表は、この作品における、5度音程(5°)、特に完全5度音程(r5°) が、一種の「原モティーフ」として作品全体に統一性を与え、その多様な組み合わせによる音素材のソノリティーへの寄与とその用法、および他の音素材との関連性について考察する。
冒頭の長9和音(☆9)それ自体、3つのr5°によって構成され、r5°を長3度(g3°)で堆積した長7和音(M7)、M7とのコントラストを形成する短3度(k3°)で堆積した短7和音(m7)を内包している。r5°をg3°で継時的な枠組みにした和声進行も登場する。r5°を短2度(k2°)で堆積した音素材は、2つの長3和音(M)の堆積へと発展し、クリスタル和音を包摂するZ音階の萌芽へと至る。r5°を長2度(g2°)で堆積した音素材は、掛留和音(sus4)および、それ自体r5°のr5°での堆積である5音音階――この作品の第1のクライマックスを形成する――へと発展する。特筆すべきは、第2のクライマックスを形成する、r5°をdm°で堆積させた音素材である。これはメシアンのモードにはカウントされていない移限音素材であり、ドビュッシーの《西風が見たものは》(1910年)冒頭で民謡のトリコルド([c])をdm°で堆積させた形で印象的に登場するため「西風音階」ととりあえず命名している。
他方、減5度音程(v5°)すなわち3全音(dm°)は、ドミナント系列の諸和音、第5音下方変位、および自然倍音第11音としてソノリティーに寄与し、完全5度とのコントラストとしての役割も持っている。これによる全音音階(WT)の萌芽形態への発展もみられる。

 

見上 潤

(音楽分析学研究会

音楽アナリスト、指揮者、ピアニスト。研究テーマ:テクスト・音楽・演奏を統一的に把握する「ことば・おと・こえの三位一体」の理論と実践。音楽分析学研究会・ドルチェカント研究会主宰。日本音楽理論研究会幹事。日本リズム協会会員。日仏現代音楽協会会員。国立音楽大学声楽学科卒。同大学院作曲専攻(作品創作)修了。