日本リズム学会 

Japan Institute of Rhythm

57例会 
 


 ビート・クラス・セット理論(1)基本と射程

川本聡胤(フェリス女学院大学准教授


音楽のリズムをどう分析するか---この問題に、これまで多くの音楽学者が取り組んできた。彼らの多くは長い範囲に渡る曲の流れとしてのマクロなリズムや、楽譜にも表すのが困難な微細な揺れとしてのミクロなリズムに着目してきた。これに対し、1990年代からアメリカで誕生した「ビートクラス・セット理論(Beat-Class Set Theory)」は、マクロでもミクロでもない、人の耳がすぐに把握できる、そして楽譜に記すことのできるリズム・パターンを客観的な手法で分析するツールとして、特にミニマルミュージック研究の分野で成果をあげてきている。
ビートクラス(BC)とは、ピッチクラス(PC)になぞらえて生まれた用語であり、小節内におけるビート(拍)の相対的位置を、数字で表したものである。4分の4拍子であれば1拍目が0、2拍目が1、3拍目が2、4拍目が3でそれぞれ示される。4分の4拍子が続くと、0から3までの4進法が機能することになる。8分の8拍子が続く場合、0から7までの8進法が機能することになる。いずれにしても、この数字のシステムを一定の規則にのっとり使用すると、あらゆるリズム・パターンは、複数のBCのセット(集合)として示すことができる。そしてPCセット理論と同じように、セットどうしの数的関係性をさまざまな角度から比較検討していくことで、音楽の新しい側面に光を当てることができる。
本発表では、BCセット理論で用いられる基本概念を一つ一つ、具体例とともに、丁寧に紹介する。次にこれらの概念を用いた簡単な楽曲分析例を示し、最後にこの理論の射程範囲に関する一般的考察を行う。ミニマルミュージックに限らず、より19世紀以前の西洋芸術音楽や、世界各地の民俗音楽、それにポピュラー音楽のいくつかのジャンルのリズム分析への適用可能性について概観したい。

川本聡胤

慶應義塾大学で修士号、ノースキャロライナ大学(チャペルヒル)で博士号。著書に『アメリカ音楽理論への招待(仮)』(編著、近刊)、『J-POPをつくる!』(単著、2013)、Global Glam and Popular Music(共著、2016)、Beggars Banquet and the Rock and Roll Revolution(共著、近刊)、『キース・エマーソン自伝』(翻訳、2014)ほか。フェリス女学院大学准教授。日本リズム学会代表。