日本リズム学会 

Japan Institute of Rhythm

第56回例会

 旋法とは何か? (第10回)
移調の限られた旋法第2番のショパンにおける用法と「メシアン節」の比較考察

見上潤(音楽分析学研究会


本発表は、移調の限られた旋法(以下、MTL.と略記)のメシアン以前の作品、特にショパンにおける用法の分析と解釈を行う。これは本シリーズ第3回目に予告していた内容である。MTL.2(第2旋法)を用いた作曲家として、リムスキー・コルサコフ、スクリャービン、ラヴェル、ストラヴィンスキーの名前のみが、Messiaen, La technique de mon langage musical(1944) には記されている。だが実際には、MTL.2を使用した作曲家はこれらに留まらず、ショパン、リスト等にもその用例を認めることができる。ショパンの作品にみられるMTL.2の用例を分析すると、非調的な構造を持った他の移限音素材と同様に、MTL.2は調的コンテクストの中でも非常に効果的な音楽的意味を持ち、ロマン主義的音楽表現の必然性を持つと同時に、メシアン的なMTL.2の萌芽形態とも考えられる。これによって、近代音楽の先駆者としての新たなショパン像が浮かび上がってもくる。
また、比較検討のため、MTL.2のメシアン特有の用法(「メシアン節」、もしくは「メシアン訛り」)について、《8つの前奏曲》(1929)の第1曲「鳩」の分析を通じて考察する。一つの音素材が時代を超えて共有される現象は興味深く、双方の作品解釈に有益であろう。また、クリスタル和音の取り組みと同様に、それぞれの音素材による通時的な音素材「史」も可能となるであろう。
今回の分析対象としたショパンの作品は以下の5曲。
《練習曲集》 作品10 第9曲 ヘ短調 (1833)
《ピアノソナタ第2番》 変ロ短調「葬送」 作品35 (1839) 第1楽章
《前奏曲集》 作品28 第8曲 嬰ヘ短調 (1839)
《ポロネーズ第7番》 変イ長調 「幻想」 作品61 (1846)
《チェロ・ソナタ》 ト短調 作品65 (1846) 第3楽章

見上 潤

(音楽分析学研究会

音楽アナリスト、指揮者、ピアニスト。研究テーマ:テクスト・音楽・演奏を統一的に把握する「ことば・おと・こえの三位一体」の理論と実践。音楽分析学研究会・ドルチェカント研究会主宰。日本音楽理論研究会幹事。日本リズム協会会員。日仏現代音楽協会会員。国立音楽大学声楽学科卒。同大学院作曲専攻(作品創作)修了。