日本リズム学会 

Japan Institute of Rhythm

第55例会

 旋法とは何か? (第8回)
和音分析への音素材分析の応用 ―シェーンベルク《4つの歌曲》作品2(1899年)の分析

 

見上潤(音楽分析学研究会→プロフィール


およそ1908年あたりを境にしたシェーンベルクの「調性期」と「無調期」の作風の相克は聞き手をたじろがせる。また、音楽史的意義は認められているが、ある種の「わかりにくさ」を聴覚的に感じさせられるだけでなく、アナリーゼにおいても調的な音楽理論を拒絶する「無調期」以降の作品群のみを知るものにとっては、濃厚なロマンティシズム溢れる「調性期」の作品の美しさに驚かされる。この両期間の内的連関を明らかにするためには作曲年代順の詳細な作品分析が必要であろう。
作品1の《2つの歌曲》”Zwei Gesänge” (1897?) は、シンフォニックなテクスチャーおよび構造を持った長大な作品なので、時間の都合上、今回は作品2の《4つの歌曲》” Vier Lieder” (1899) を分析の対象とした。
本発表シリーズ「旋法とは何か?」は、第1回(2014年3月29日)から、「旋法」概念を120種の「音素材」にまとめあげ、それぞれの音素材の各論、その分析への応用を行ってきた。この研究はそもそも、『総合和声』以降の最新の島岡和声(ゆれ)理論を補完するために、錯綜とした調性構造を持った後期ロマン派から、非調的な近代音楽までの音楽作品の分析を的確に行うことを目的としていた。したがって、まずは島岡理論をベースにして、マクロからミクロに至るまでの「ゆれ」(調のゆれ、和音のゆれ、構成音のゆれ)を明らかにする。その後、頻出する調性や和音の同定困難な細部を「音素材分析」によって詳細に考察する。
音楽分析とは、主観が感じとったものにふさわしい記号によって記述する行為である。かなり客観的に絞り込んだ「音素材分析」でさえも、どこまでを一つの音群と考えるかによって結論は異なってくる。こうした作業プロセスを紹介することが本発表の目的である。
日本音楽理論研究会専属ソプラノ歌手である小川えみさんのご協力を得て実演も行う。