日本リズム学会 

Japan Institute of Rhythm

54例会

 

音楽的リズムと日本語—古事記の歌謡からラップまで―」

安田寛(奈良教育大学名誉教授→プロフィール


 「ギリシャ人の韻文とは,言語であると同時に音楽でもあるようなひとつの現実だったのである。そこで言語と音楽を結びつけていたもの,つまり両者に共通するものはリズムであった」(木村敏訳 T・G・ゲオルギアーデス『音楽と言語』)
 ギリシャ人を日本人に替えれば,ゲオルギアーデスの言っていることは,そのまま日本語のことである。
 「音楽的リズムは,そこでは言語自体の中に内蔵されていた。つまり音楽的なリズム構造は,言語によってすでに余すところなく確定されていたのである。だから,このような韻文に勝手なリズムをもった音楽をつける余地は残されておらず,それになにかを付加したり変更したりすることは,不可能なことであった」
 「日本語自体の中に内蔵されている音楽的なリズム構造」は面白いことに暗号に喩えるとよく分かる。暗号では、暗号化する前のテキストを平文といい、暗号化された後のテキストを暗号文という。日本語のリズムは平文であり,日本語とはリズムが隠された暗号文である。したがって,解読する鍵とアルゴリズムさえ分かれば暗号(日本語に隠されたリズム)は解読できる。
 歌,短歌,俳句,川柳,詩,諺,地口,台詞,口上,キャッチコピー,タイトル,要するに日本語による音楽活動,文芸活動,言語活動は,例外なくみなこの解読の結果にすぎない。
 無意識に行っている解読作業を意識して行う。そのため,今回は私の理論から2つのコンセプト,ステップとレベル,そして, 「文節の区切りを拍の区切りに一致させる」という1つのルールを使う。これらによって,古事記の歌謡から現在のラップまでのおよそ千五百年の間に,日本語の歌のリズムがどう変わったのか,どう変わらなかったのか説明する。