日本リズム学会

Japan Institute of Rhythm

 

53例会

 

『調性と無調性の間に咲く妖しい“花”=「クリスタル和音」の性格と用例分析――バロックから現代まで――』

見上潤(音楽アナリスト →プロフィール

 「クリスタル和音(Crystal Chord)」とは、「短3度・短3度・増3度」という構造の4和音であり、その特殊な響きが「キラキラ」した性格を持つがゆえ、島岡譲によって命名された音素材である。本発表は、バロックから現代にいたる実作品における用例の分析によって、痛みと甘さを兼ね備えた心理的屈折を表出する、この音素材が醸し出す妖しげな響きの正体を考察する。
「クリスタル和音」にさらに他の音を付加する「付加和音化」(ジプシー音階 MTLの諸音階 西風音階 東風音階などの他音素材への「重層化」)、複数の「クリスタル和音」の「複合化」、他方、「4度堆積3和音」や「軋み音程」への簡素化、さらには音高上の対称性構造を持った「逆クリスタル和音」等、様々な展開形態の性格を検討し、「旋法とは何か」(当会発表)で提起した方法によって分類し、これら諸形態の相互関連を視野に入れることによって、調性と無調性に共通するソノリティーの仕組みを考察する。
無調的と感じられるパッセージであっても、和音分析、階名分析、位相分析、等によって調的意味を可能な限り明らかにし、実演もまじえながら、調性と無調性の境界点について考察する。
なお、本発表は、「演奏表現学会」における発表(2008年11月24日)の改訂版である。
※ 分析対象作品の作曲者名(生年順): バッハ、ベートーヴェン、シューベルト、ブルグミュラー、ショパン、リスト、ヴァグナー、ヴェルディ、フランク、ブラームス、ビゼー、チャイコフスキー、フォーレ、マーラー、ドビュッシー、リヒャルト・シュトラウス、スクリャービン、ラフマニノフ、ラヴェル、ヴェーベルン、ストラヴィンスキー、ベルク、プロコフィエフ、メシアン、バーバー、ルトスワフスキ、デュティーユ、武満徹、三善晃、他。