日本リズム学会

Japan Institute of Rhythm

 

56例会

 

「武満徹のポピュラー音楽作品における構造」

山路 敦司
作曲家・博士(音楽)

本発表では、武満徹(1930-1996)の音楽に見られるポピュラー音楽性について焦点を当てる。武満は生涯多くのポピュラー音楽性のある作品を、映画、テレビ、ラジオ、舞台等の付随音楽として残している。しかし現在の武満研究の多くは現代音楽作曲家としての側面を中心に扱うものが主流であり、ポピュラー音楽作品とその影響についてあくまで傍流扱いされてきた可能性がある。これは武満の多様な音楽の中のある一面であり、正しい作曲家像を理解することにおいて決して妥当かつ十分な視点とは言えない。武満作品に共通する音楽的構造の中心は旋律であり、これはポピュラー音楽にとって不可欠な要素でもある。この共通項を手がかりに、武満作品の主流と傍流を同一線上に存在するものとして捉え、ポピュラー音楽から付随音楽作品を経て現代音楽作品までの概観を試みる必要があると考える。とくに旋律の音高遷移を中心に楽曲分析を行い、武満の音楽作品全体に通底する作曲語法について客観的に定義することを目的とする。
 また、武満は随筆や評論など多くの著作を残しており、メディアへの登場回数やインタビューの記録も多く、これ程までに多くの「言葉」を自己表現として残した日本の現代音楽の作曲家は過去に例が無いとも言える。全ての作品に一貫する標題音楽的で特徴的な楽曲タイトルの付与についてもわかるように、武満にとって「言葉」とは自己表現のために不可欠な手段であり、それが武満を作曲家たらしめている所以でもある。その反面、エクリチュール(書法)による音楽的な完結を「言葉」で結果的に補完している可能性も否めない。武満の残した言説と、音楽作品の実際との整合性の如何について検討を試みることで、現代音楽作曲家としてのいわゆる一般的な評価とは異なる武満の作曲家像を浮き彫りにする。

山路 敦司

大阪電気通信大学教授

作曲家。博士(音楽)。東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了。京都市立芸術大学大学院博士(後期)課程修了。スタンフォード大学客員研究員、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー修了を経て、現在、大阪電気通信大学総合情報学部教授。映像音楽やゲーム音楽等を中心に芸術とエンタテインメントを領域横断する制作や研究活動を行う。