日本リズム学会

Japan Institute of Rhythm

 

55例会

 

「ビリー・ジョエルの音楽 ——ロック様式の変遷——」

宇野友子(フェリス女学院大学副手

本発表は、アメリカのポピュラー・ミュージック界のシンガーソングライター、ビリー・ジョエル(Billy Joel, 1949〜)が20年以上に渡り生み出し続けてきたヒット曲に関する分析研究である。1970年代〜1990年代のスタジオ・アルバム収録作品全116曲を対象とし、形式分析を試みる。
ジョエルの楽曲をポップ・ソングに多く見られるAABA型とAAA型に分類できる。すなわち、AABAやAABAB等のBを含む複雑なAABA型と、AAAやAAAA等のBを含まない単純なAAA型に分類する。
ジョエルの楽曲形式には、1985年頃を境に形式の変化が見られる。前期となる1985年以前の楽曲では、AABA型がAAA型より優位を示し形式の内部構造が複雑であり不規則な反復が見られる。後期の楽曲では、AAA型が増えて形式内部にも複雑さが鈍化の傾向を示す。
こうした時期別の比較分析により、ジョエルの曲作りは主流ロック様式の影響があると推察される。すなわち、前期の楽曲では、複雑な形式と不規則な反復が特徴的な1970年代が主流である複雑性志向のプログレッシブ・ロック様式の影響が考えられる。後期の楽曲では、複合的な内部構造が少なくなり1980年代が主流である比較的整った形式と規則的な反復を特徴とする単純性志向のニューウェイブ様式の影響が伺われる。
また、ジョエルの曲作りの特徴は、ほぼ同時期に活躍したイギリスのシンガーソングライターであるエルトン・ジョン(Elton John, 1974〜)の楽曲と比較する事により、その違いがはっきりする。ジョエルの楽曲は形式の内部構造が複合的であり、時代による様式の変化があらわれている。しかし、ジョンの曲は、複雑な形式が少なくやや単調な印象を与える。両者ともポピュラー・ミュージック界でヒット曲を生み出しているが、その曲作りの違いは、形式分析により明瞭となる。
以上の分析から、ジョエルの曲作りは時流のロック様式を取り入れることによって、時代に沿う多数のヒット曲創出という業績に繋がるものと考察する。